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Little Bravery Э  5.2

5.2


 曰く、世界というものは星の数、砂粒の数、いやそれ以上、まさに無限大としかいえないほど存在しているのだ、と説明された。
 新太のいた地球とアルヴェールのいるクラ・リオもそうだし、同じ地球でも、何かのタイミングで「そこ」から枝分かれした存在であるところの、つまりは平行世界もそれで。
 考え方によっては、すべて違う世界だが、すべて同じ世界とも言える。
「っていうのが、ぼくの得た知識で……って、半分は授業で学んだことなんですけど」
「あ、やっぱ学生なんだ」
「学生といっても、一般校ではなくて魔学および魔法学の専門的なものなんですけどね」
 ようは義務教育などではなく、専門学校的なものだろうと新太は認識する。
 魔学は魔法の源になる魔力や魔物について、魔法学は文字どおり魔法についての学問、らしい。
 らしいというのは、気もそぞろの新太がアルヴェールの話をまともに聞いていなかったからだ。
 この夢見がちとしか言いようのない雰囲気の子が、本当に、自分を異世界に召喚したのだろうか。
 召喚といえば格好良く聞こえるが、その実、誘拐だとか強制連行だとか、そういった単語のほうが、新太にとってはイメージとしては近い。
「とにかくなんでもいいので僕を元の世界に返してくれませんかね、君が呼んだんなら戻せるでしよ当然」
「はい?」
 間があいた。視線が宙に浮いて。
 十秒くらい経ってから、あー、と一言漏らして、目をそらしつつ、口ごもりながらこう言うのだった。
「そのうちやり方見つかると思いますよ、おそらく」


 ライにとってしてみれば、どんな魔法がかけられただの何が起こって新太が連れ去られてしまったかだのはいたって些細なことで、とにかく自分が無様にも眩惑魔法にかけられたという事実自体が屈辱であり、穴があったら入りたいレベルの恥ずかしさだった。
 指先で宙に2、3円を描くと、その軌跡を追いかけて光の筋が浮かびあがって、ライの眼前をかすめる。
 チリッとした感触があって、それから何ががまぶたの上からはがれ落ちるような清涼感。
 瞳を開いて鏡を見てみれば、もうそこには緑色の何かではなく、自分としっかり認識できる、幼い男子の顔が映っていた。
「うむ、いつもの美形」
 言ってから、なんだか無性に腹立たしくなって、両手で自分の顔をひっぱたいて気合をいれた。
「わかってます、わかってますってば」
 誰かに叱られて謝るような、情けない口調でそうつぶやいた。


 新太の立腹たるやそれはそれは大きなもので、頭を掻きむしって何度「ちょ……!」と口に出たか数知れず。
 最初はニコニコ顔で能天気に目の前でお茶をすすっていたアルヴェールも、新太の収まらない苛立ちにさすがに罪悪感が芽生えたのか、時間が経つにつれて表情は曇り、視線が泳ぐ。
 突然立ち上がった新太に驚いて、カップを取り落としたくらいだ。
「なんか役立つ本無いの?勉強か研究かしてんでしょ、役立ってないみたいだけどさ」
「えっ、ああ、うん、そ、そうだね」
 しどろもどろになってそう言って、アルヴェールは新太を隣の部屋に案内した。
 部屋は寝室兼書斎になっていて、とはいえまだ年若いアルヴェールがそんなに難しい学術書を何十何百と読みふけっているわけでもないらしく、本棚には参考書や教科書、巷の書店で見かけたような専門書の類が多く並んでいた。
 もっとも、新太がこの本の山の内容をどれだけ理解できるかというと、まずはこの世界の文字を完璧に読めるようにならなくてはいけないし、そもそもこんなに読む気力も無い。
 新太は呆れたような、感心したような調子で言う。
「……勉強、好きなんだね」
「嫌いじゃあないですね」
「僕は好きじゃない」
「そういうひとも多いですよね」
「でも、やんないと進学厳しいしなあ」
「あっ新太さんって学校通ってるんだ」
「そりゃ普通は通うよ、中卒で就職なんて今の時代そうそう無いよ」
「チューソツ?」
「こっちの世界の話」
「新太さんの世界ってほんと異世界ですね」
「何言ってんだよ君は」
 とにかく、今すぐ何をどうしたところで自分がこの世界から帰る方法が見つかりはしないということだけは新太はよく理解した。
 そして、それだからといってアルヴェールを責めても意味が無いことも。
 責めただけで帰れるのであれば、今頃自分はもう自宅のベッドで眠っている。
 だから、新太は提言する。
「あのさ、提案なんだけど……アルヴェールも僕らと一緒に旅しない?」
「は?」
 何言ってんだこいつ、とでも言いたげな顔をされた。それでも物怖じしない。
「いやだってホラ、僕って今元の世界に戻る手段を探してるわけでさ、それってつまり、アルヴェールが僕のいた世界に行けることになるかもしれないんじゃないかな、って」
「えー、ほんとかなあ嘘くさいなあ」
「いやなんでそこで懐疑的になんの」
「自分で調べて理解して会得できないものが真実とは思いたくありません」
「教科書読んでるだけじゃわかんないことなんか沢山あるじゃない、っていうか教科書に書いてることが全部真実だと思うのもそれはそれでヤバいよと進言したいネット世代のワタクシなのであります、っていうか君さっき学校で学んだって言ってたじゃないか」
 面倒くさい奴だなあ。わかんない奴だなあ。
 新太はすっかり参ってしまって、大きくため息を漏らしてしまった。
「もういいや、とにかく君には期待しない。僕は急いでるから、グラベルの宿屋さんに返してよ、っていうかそもそもなんで僕を召喚したに飽きたらず誘拐までしたのかって話だし」
「それはアレです、ぼくが、異世界……チキューでしたっけ?に行くために必要なんです、新太さんが。だからダメです、返しません、ぼくには新太さんがいないとダメなんです、新太さんはぼくの生きがいなんです」
 野郎にそんなことを言われてもちっとも心がときめかねーよとは口に出さない。
 今までの会話からして、彼がおそらく「出来る」と思っているだけで、実際には無理であろうことは容易に想像できた。
 そんなこんなで、再び二人の押し問答が始まるかと思いきや、
『ちわー、八百屋です米屋です、悪い子いねーがー人さらいはいねーがー』
 どこからともなく聞こえてきた声が、それを邪魔するのだった。新太には、聞き覚えのある高めの男の子の声。
 みるみるうちに、アルヴェールの表情が強張ってゆく。その様子が、新太にしてみれば不思議で。
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