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Little Bravery Э  1.5

1.5


 二錠の魔法の粒は確かに新太の喉を通り過ぎ、空腹と疲労が支配するお腹へと、それはもうすんなりと運ばれていった。
 ライの語りっぷりから察するに、食べた瞬間効力を発揮して、疲れきった身体が全快してしまうような素敵マジックアイテムだったのだろう。が、そんなライの常識と期待に反し新太は、疲労の取れる気配も、空腹が満たされる感覚も、いっこうに感じられなかった。
「あーれぇーおっかしいなぁ。昨日オイラが食ったときは効いたんだけど」
「不良品とか?賞味期限切れとか、実はただの風邪薬だったとか。もしかして本当に生理痛のくす」
「あーもしかして、あれって本当なのか」
 ちょっと考えたような素振りを見せたライが何か一人で納得したようで、手のひらをポンと叩いて新太の問いを遮る。
 不審そうにその姿を見ている新太の顔を覆うように、突然ライが手のひらを広げた。
 新太がワッと声をあげたのもつかの間、その手がぼうっと緑色の光を帯びていく。
 魔法。
「な、ななななな何すんだよ」
 驚いて後ずさりしようにも、疲労で身体が重くて動けない。背筋に寒気が走る。
「ちょっと実験させてもらっていい?」
「そそそそういう問いは行動に出る前に言うべべべべべきだ!」
「いいじゃんめんどくさい」
 ワルだ。
 手のひらの緑色が輝きを増し、かたく目を閉じてもその上から光がにじんでいた。生まれて初めての魔法体験なのに、ちっとも嬉しくない。
 風を切るような音がして、髪の毛が揺れるのを感じた。
 ……それだけだった。
 目を開けて、キツネに鼻をつままれたかのようにキョトンとする新太に、ライが深く感銘のため息を漏らし、やはりどこからともなく取り出したメモ帳とペンで、何かしら書き始めた。
「あ、これ日記。冒険記録ってやつ?趣味と実用兼ねて」
 訊いてもいないのにライが言う。物書きに集中する様子はどこか研究者や学者じみていて、見た目の年齢を感じさせない。
「異世界から来たニンゲンはねー、存在の定義がクラ・リオの概念から一部ズレてるから、触れたり会話ができても魔法が使えず、また直接的な魔法力の干渉は受けない人もいる、って聞いたことあってさぁ。おもろいし試したくなるじゃん?目の前にサンプルが飛び込んできたらさー」
「うっわ何そのストレートな言い方。ひッど」
「えーだって変に誤魔化したほうがイヤじゃない?裏で何考えてるかわかんねーこいつキモーイみたいな。新太最初に助けたときオイラのことバケモノ扱いしてたろ。お互い様お互い様。っていうか魔法効かないだけなんてマシマシ。場合によっては……ま、いいか」
 ライの言い分はいちいち正しくてぐうの音も出ない。居心地が悪くなった。
 だから、立ち上がった。身体が重たい。
 ライの心配そうな顔は見なかったことにした。
 先に見える光の中にあるであろう高そうな宿屋に飛び込んでフテ寝してやる金はライに払わせる絶対に払わせる。
 どうしてこんなに腹をたてているのか、自分でも不思議だ。


 太陽が9割は沈んだ頃にやっとたどり着いた小さな村には、期待するような宿泊施設は無かったものの、町の中央にある何らかの宗教の教会が部屋を貸してくれた。祈りを捧げるための石造りの小さな聖母像らしきものが鎮座した、木造の小さな聖堂。無償だということで、ライが喜び新太は舌打ちした。
 つり上がった目と背が高くないのに猫背のせいでさらに小さく、だらしなく着込んだ衣服がやけに小汚い印象を与える中年の神父が、ひひひと下品な笑い声をあげて、あまり綺麗ではない毛布とシーツを持ってきた。ホコリはついていなかったが、端がカビている。
「普段あんまり人の来ない村だかァらネ、マトモなおもてなしが出来ンのは神に仕える立場としてはもォしわけないと思ォてるンですよ」
 そうは言うものの、口調自体はちっとも申し訳なくなさそうだった。むしろどこか嘲笑じみていて、感じが悪い。そのことにライも新太も意見を言える立場ではなかったが。
 いえいえお構いなく、とライが応えたら、神父はまたもひひひと笑って背を向けた。
「神のご加護がァらンことをォ」
 どっと疲れた。
 扉が閉められると、新太はさっきまでの不愉快も忘れて、ライにぼやいた。
「異世界の田舎って、もうちょっと和やかで牧歌的だと思ってた」
「ボッカテキ、ってどういう意味だ?」
 そういえばなんだっけ。あとで辞書引くかと思ったが、国語辞典なんて鞄に入れてない。そういえば鞄はどこへいった。
「とにかく、あれだな」
 ライは自分で問いかけたのも無視して、敷いた布団にどさりと腰を下ろしながらも、目を細めて顎に手をあてる。
「あの神父はクサい、とオイラの野生の勘がそう告げてる」
「……見た目で損する人っているよね」
「オイラはどこをどう見ても善良を絵に描いたような紅顔の美少年だからなぁこの先もオイしい生活を送れること確実だなふはははは」
 もうツッコむのも面倒だった。

 近くの雑貨屋が閉店間際だったので、慌てて二人は食料品を買い込み、引き替えにライが貨幣らしき金属と一緒に、肉片を店主に手渡す。魔物の残骸だった。魔物の、魔法力の残滓が金になるのだ。リサイクルのようなものだと新太は理解した。産廃じゃないじゃん。
 異世界にやってきたのに、目の前では物々交換や買い物などどこか日常じみた風景があって、交換されたものは見慣れないけど、人々の営みは同じなんだな、と新太は新太なりに理解する。
 リアルに感じられるリアル。
 まだ「こっち」に来てから一日も経ってないのにこんなに自然なのが、自分でも意外だ。ライがあまりに俗っぽいからだろうか。初対面なのに昔からの友達みたいな態度で。あとであの長い耳引っ張ってみよう、と思った。
 たっぷり買い込んだ食料と魔法グッズ(それぞれ何の効果があるかわからないのは、新太にしてみれば非常につまらない)をライはすべて、腰に提げていた小さな筒状の物体に投げ込んでいた。大きな果物も、四角い箱も、まるで水がポンプで吸い上げられるかのように形状を歪ませて、スポンと音をたてて収まっていく。旅の途中というライがシャツにズボン、矢筒だけという軽装の理由がわかった。なんとなく、ダミ声の青い狸や、ほこりっぽいカレーポットを思い浮かべた。
 今日食べる分だけは買い物袋に入れ、じゃあ戻ろうか、と教会の方を見やると、二人の視界にシルエットが入った。教会の中だった。

01_05.jpg

 一人は、あまり高さのない猫背からして神父だとわかる。
 もう一人は、細身で髪の長い、おそらく女性だった。
 神父の手に杖のようなものが握られ、高々と掲げられている。
 力が入っているのか、ぶるぶる震えている。
 その腕が一気に降りおろされて、女性の影が飛び上がった。
「……オイラの野生の勘、すげーくねえ?」
 そう口にするライの声には、少々の緊迫感があって。
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