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Little Bravery Э  1.6

1.6


 降りおろされた腕に女性の影が反射的に飛び上がって、窓枠の外に隠れて見えなくなってしまった。
 神父の影がそれを追いかけるように消える。
 部屋の中を窺える窓はそのひとつしかなく、部屋の中で何が起こっているかは二人には他に知る手段がなかった。近寄って中を覗くのは危険な気がしたから、やらない。
 でも、想像するのは簡単だ。
「虐待だよね、あれ絶ッッ対虐待だよね、ね?ね?」
「実は裏でアブナイ組織と繋がってるブラック教会かもしれねェな~。アリガチな話だ」
「えええええ!?」
 新太は心底驚いて、買い物袋を思わず手放しそうになる。
「実際そういう組織は噂には聞いたことあるし。チキューにもあるでしょ、そういうの」
 言われてみれば、マフィアだの人身売買組織だのは地球にも存在するのだった。名前は知らないけれど。身近ではないから、別世界の話だと思っていた。多分見えないだけなのだろう。
「じゃ、じゃじゃじゃじゃあじゃあアレなの、僕らも彼女のように虐待の末拉致監禁、あわよくば奴隷とか?あああああそれはやばい、やばいよ!あそこにいたら寝込みをクロロホルムで襲われて気絶させられて気づけば牢屋の中で一晩過ごしたと思ったらデブでヒゲの脂ギッシュな奴隷商人が皮のムチ片手にビシイイビシイイオラオラおめぇらキリキリ働けェーッ!とかいってギラギラ電飾施された華やかなお城の地下で毎日毎日巨大発電機を人力でグルグル動かしてたりしててその列に加えられて死ぬまでハムスターみたいに走らされるとか男色の人買いに低額で売られて毎日毎日良いではないか良いではないかあああお殿様それはダメぇダメですぅはううううん目が回りますうううんデンチューでござるデンチューでござるうううとか煙突掃除の強制労働で組合つくって地元の美少年と愛情深めちゃったりとかどっかの山頂で宗教施設作らされながらどっかの王子様と愛情深めちゃったりとかそんな感じなんだねそうなんだよね?あああああそれはやばい、逃げだそう絶対逃げよう地の果てまで逃げまくろう。逃避行だよ失楽園だよ」
「その前に誰かさんがモーソーに逃避行したのを、オイラは見た」



 忍び足で礼拝堂に戻った二人は、まもなく訪れるであろうその時に備えて、それでも腹が減っては戦はできぬ、背に腹はかえられぬと買い物袋の食べ物をいくつか平らげて、加えてライは例の回復薬を飲んだ。
 疲労で多少こけていた頬に一瞬で血色が戻り、新太は複数の意味でうらやましかった。悪いなあ、とライが苦笑する。
 それから、道具袋(筒だが、便宜上新太はそう名付けた)から取り出した球体を10個ほど、新太に手渡した。赤い球が3つ、青い球が2つ、黄色い球が4つ。
 使い道と効用は詳しく教えてはくれなかったが、なんとなく想像がつく。魔力に頼らない、魔法が使えないときのためのマジックアイテム。こんな想像がすぐにわくなんて、きっとこういうのがゲーム脳って言うんだな、と思った。
 とるべき行動は、新太が問うよりも先にライが説明しはじめた。
 本当に神父が人さらいだったとして、それならば待つよりも先に攻撃だと。幸い向こうは我々があの光景をうっかり見てしまったことに気づいていないだろうから、油断している今しかタイミングは無い。
 先頭はもちろんライだ。新太の役割は、
「その魔法弾を百発百中で敵さんに命中させるか、後ろで何もせずにブルッてくれてると有り難いな、オイラは」
 ―――である。
 少し腹が立ったが、あのひまわりのバケモノの姿を思い出すと腰が砕けた。
「……あのさ」
「なんだよ、せっぱ詰まってんだから後にしようぜ」
 ライに何か一言声をかけたかったが、何を言えば良いのかわからない。
 わからないといえば。
「そもそもなんで人助けする、って話になったんだっけ?」
「自己防衛の発展系かつヒーロー願望及びタナボタへの期待」
「ああ、多分それだよね」
 あとひとつ加えるならば、若さ故の無謀。


 薄暗くてあまり綺麗とは言えない教会の廊下になぜか一つだけ、その場に似つかわしくない真新しいつくりの扉があって、照明の光がその中から漏れていた。位置関係を計算して、この部屋が「目的地」だと確信する。
 怖いんなら部屋に残っててもいいんだぜと言う言葉に甘えず、新太は忍び足のライの後ろについていった。なるべく静かに歩いたつもりだが、たまに床板がきしんだりして、そのたびに息をのむ。
 来たときには自然すぎて気づかなかったが、教会の中にはまばらではあるものの、蛍光灯が天井から吊り下げられていた。剣と魔法のファンタジー世界には科学技術なんて存在しないと思ったのに。ちょっとだけがっかりだ。
 が、この田舎町でこれなのだから、都会に行くとどうなのだろう、と興味も出た。
 そんなことを考えていたら、困り顔のライにデコピンされた。
「おい異世界人、時差ボケは治ったかい?」
「う、うるさいな、騒いだら神父に見つかるだろ」
「よろしい」
 せーの、でドカーングシャーッバキィーッて感じで行くから可能なら援護お願いと小声で言われ、何をどうやってドカーングシャーッバキィーッなのかは言ってくれないので、援護なんてできるはずもなかった。
 ライがドアに向けて右手をかざすと、その手のひらにオレンジ色の光が渦を巻いて球体をつくる。見るからに熱そうな、凝縮された炎。爆弾のようなものだろうか。
 その球体を両手で抱えて、野球のピッチャーよろしく、ワインドアップ姿勢から大きく振りかぶって思いっきりドアに投げつけた。
「とりゃーーーあ」
 ドカアアアアアン!と、寿命が10年は縮まりそうな強烈な爆発音とともに扉が派手に吹っ飛んで、煙がもうもうと上がるなか、ライが部屋の中に躊躇なく飛び込んでいく。
 あまりの突然かつテキパキとした行動に新太は呆気にとられて、グシャグシャに壊れた扉を見下ろすことしかできなかった。せいぜい蹴飛ばすくらいだと思っていたのに。っていうかせーのって言わなかったぞあの尖り耳。
 ややあって気を取り直して、それから違和感に気づいた。
 部屋の中から音がしないのだ。
 ライがその素早い仕事で神父を仕留めたのか、それとも。
 新太は、おそるおそる部屋へと忍び込もうとして、壊れた扉の端に足をひっかけて、そのままつんのめるようにして部屋に飛び込んでしまった。
 そして、無我夢中で部屋の中を見やって、
「……ありゃ?」




(今回は絵無し、です)
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