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Little Bravery Э  1.7

1.7


 女の子がいた。
 巻き上がったホコリでけむたい食堂。
 女の子と目が合った。すらっとした、背の高い女の子だった。
 新雪か綿毛を思わせる、腰まで伸びた真っ白な長い髪が、新太の目に焼きつく。
 髪の毛とは違った意味で白い肌に、花びらのような薄桃色の唇。
 青い瞳はどこか遠くを見ているようににごっていて、その焦点は定まっているようではあったが、目が合っているはずなのに、お互い違うものを見ているような気がする。
 教会から支給されたのか、紺色の地味なワンピースが、彼女自身の白さをさらに映えさせていた。
 視線を落とすと、スカートの先から細い足が伸び、素足があらわ、その素足の更に下に、例の神父の腰があって、
「って何このシチュエーション」
 新太は我に返って、女の子から視線を落とす。
 顎が外れんばかりに口をあんぐり開き、目を丸くして今にも飛び出してしまいそうなほど驚いている顔の神父が横たわっていた。女の子に踏まれている。
 女の子のほうはというと、まるで今ここで何も起こっていないかのように視線を下ろし、足踏みをはじめたのだ。沈黙する空間に、ギシギシと音をたてて。
 これがいわゆるマッサージでなければ、アヤシイ趣味としか言いようのない風景。
「えーと、ひとつ質問良いですか神父サマ?」
 一足先に意気揚々と飛び込んでいたライが、魔力を放出する予定であるはずの右手を正面に掲げたまま、強ばった口調で問う。
「カブーロ、もしくはナッチスって単語に聞き覚えアリマス?」
 神父の不審そうな顔。
 回答としては、それだけでじゅうぶんだった。瓦解。
 ライの腕と肩と顎が落ちた。
 ギシギシ。
 女の子の表情は、一切変わる様子を見せない。何も意識に入っていないようで。でも、それが不思議と綺麗で。
 女の子と、また目が合った。
 女の子は何に驚いたのか新太の顔を見て一瞬身体をびくつかせたが、そのショックで神父がギニャッとか悲鳴をあげたので、すぐに元の様子に戻ってしまった。


 数刻。
 吊り目が元に戻った神父は怒ってねェ怒ってねェ気にしたら神様が嘆くでよぉとオトナの態度を見せてくれはしたが、その声は1オクターブ低くなっていたし、何より見た目が一気に老けた。
 破壊した扉は、ライが「こんなこともあろうかと」と取り出したとっておきの時間を操るアイテムのおかげでまるで新品のように修復され、一応は事なきを得たが今度はライが老けた。相当高価なアイテムだったようだ。円でいくらだろうか。
 逃げるように部屋に戻ったはいいが、部屋の聖母像の神々しいほほえみと慈愛に満ちた視線があまりに痛くて、思わずライと新太はお互いの顔を凝視してしまった。
 尖り耳に、真っ赤なハチマキ。整えられた真ん中分けの金髪は手入れしているのか、自称冒険者のくせにとくに傷んだ様子はない。背丈は新太より頭ひとつと少し低く、並んで立つと新太が見下ろす格好になる。顔つきも幼いし、どうみたって自分より年下の子供だ。
「なんだよマジマジと見つめやがって気持ち悪ィな」
 自分もそうしたくせに、ライはそう言ってプイと横を向く。
「棚から牡丹餅じゃなくてタライが降ってきた感じ」
 ブツクサと新太はそう皮肉を言ってみせて、
「そういやさっきも疑問だったんだけどさ、なんでそんな日本語知ってんの」
 問うてみたら、
「あー、だりィーーーーーもう寝る!」
 はぐらかされた。確かに、答えられるはずもない話題ではあった。
 横になったライが寝息をたてるまでに、5分とかからない。
 自分も横になったが、長時間の徒歩と教会爆破事件のゴタゴタで肉体・精神疲労はピークを越しているはずにも関わらず、頭の中でいろいろなものがグルグルと渦巻いて、とても眠れたものではなかった。


 今日一日のことを思い返してみる。普通に生活していれば何ヶ月あっても体験しないようなことが次々起こったのに、これで一日。たった一日。
 考えてみるまでもなく異様、異常、不気味。奇妙キテレツ摩訶不思議、奇想天外四捨五入、出前迅速落書無用。ホンワカパッパホンワカパッパなんだっけ。たまに父が歌っていた。父はストレートに言うとアニオタの団塊ジュニアで、「空白の世代」とか言われている。どうでもいい。
 異世界ではじめての夜を迎えようとして、やっと新太は自分の状況に強い恐怖を感じたのだった。
 ここどこだおまえ誰だ僕どうなったの僕どうしたの僕どうするの。
 目の前でアホみたいに大口をあけて眠っている金髪エルフ耳を信じる信じない以前の問題だ。あの口に拳でも突っ込んでやろうかと一瞬思ったがあほらしいのでやめた。
 種々の現象・成り行きの原因などいくら考えてみたって納得できるはずもなく、なんでもかんでも「ファンタジーだから」「異世界だから」で片づけるのもよろしくない。今頃自宅の家族が探しているだろうか。それとも、何かの小説のように、異世界にいる間は現実世界は停止しているとか。するのだろうか。どうなんだろう。テストとか内申点とかまずい、まずすぎる。こんなとこでこんなことしてる場合じゃないのに。
 ところで、あの窓から見えた神父たちのシルエットって、どういう理由でああなったんだろう。マッサージで。マッサージなのに。ムカつくなあ紛らわしいなあ。
 いろんなことを考えれば考えるほどいらつく。
 しかし、そんな新太のいらつきもやがて、やっとのことで訪れた睡魔に強制終了されることになる。疲労はいつか思考に勝る。
 眠りにつく前に考えていたのは、あの女の子の顔。

 翌日、強烈な筋肉痛で起きあがることすらままならず、さらに二泊。
 聖母のほほえみが、今度は嘲笑に見えた。
 だから、宗教なんて嫌いなんだ。
 憤慨。
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